惑星間共感駆動廻船問屋蓮荷屋 Interplanetary Shipping Agent LENKAYA

玄之智淳による個人サイト。創作小説と絵中心。無断転載お断り。
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耳飾り

 女の耳に光沢光沢つやつやした赤い玉が一つついていた。

「それは瑪瑙めのう珊瑚さんごか」

と卒然私は訊いた。

「珊瑚ですわ」

 女は嫣然えんぜん笑って答えた。

 珊瑚と云う物はうも赤かったか知らんと私は思った。一点のかげもなく電灯の下に赤々と照り輝いて、あたかも赤という色を捏ねて固めて作ったかの様である。

「誰からの贈り物」

「まあ。ほほほ。いやな人。教えられません」

 女の袂がお膳の上にひるがえって、私の洋服の肩をかろく打った。

「いずれ大事なお方だろうね」

「いい人。ほほほ」

 所はお定まりの宴席である。皆い加減にお酒が回って、席次も何もてんでばらばらになっている。少し下手しもて退さがった所で酒興の作に評判をとる某先生が何か揮毫していて、其れを数人が囲んで覗き込んでいる。他も部屋のあちこちに二三あるいは五六と散ったり固まったりしている。いずれも酔眼朦朧たるともがらである。

 女もたしかに呼んだはずであるが、幾人いくたり来て、其の内にの女が初めから加わっていたのかうか、思い出そうとしても何うもはっきりしない。

 う思って女を見ると、りあの大きな丸い玉がの内に飛び込んでくる。見れば見る程赫々かくかく耀々ようようとして世間並の珊瑚とも思われない。それが女の両耳の垂れに一つずつぶら下がっている。

「まさか酸漿ほおずきじゃあるまいね」

 極々ごくごく真面目に云ったつもりであったが、女は高声に笑って袖で私を打った。

「厭ですよ。それじゃ私は何ですか、狐か何かで御座ございましょう」

「然う云われれば成程なるほど人間ひとにしては耳が大きい様だ」

 これも私は心に浮かんだままを云ったまでであったが、次の女の言葉にぎくりとした。

「耳の大きいのは福耳と申しますから望む所で御座んす」

 私の胸を突いたのは幼時の記憶であった。私が甘えて母の膝に乗ると、母は屡々しばしば私の耳をまんで、揉みほぐしながら引っ張った。世間一般の折檻の為ではない。この子は頭の割に耳が小さいから引っ込み思案で何うも心配だ。然う云って、幼子の小さい耳をしきりに引っ張って伸ばそうとするのである。

 私はお膳に箸を置いて居ずまいを正した。

「成程福耳には福が舞い込んで来ると云う。それが本当なら耳飾りをして耳を伸ばすのも好いかも知れない。重みを掛ければ垂れが大きくなるだろうから。しかし、其の耳飾りが誰かから貰った物だったり、見も知らぬ誰かが作った物だと考えたら、何うだろう、怖くはないか知ら」

 女の顔から見る見る表情が失せた。