惑星間共感駆動廻船問屋蓮荷屋 Interplanetary Shipping Agent LENKAYA

玄之智淳による個人サイト。創作小説と絵中心。無断転載お断り。
Original stories and pictures created by KURONO Chinu. Please don't reproduce them without my permission.

ノラ☆サテ

 小学校から帰ってきたソウタは、うちの裏の空き地に、変なやつが入っていくのを見つけた。

 ソウタのうちはニュータウンの、いちばん奥のはしっこにある。うちの向こうは、でこぼこの土がむき出しで、あちこちに草がぼうぼう生えた、広い原っぱだ。ほんとはそこにもソウタのうちみたいな家がたくさん建つはずだったけど、いろいろな事情でまだ空き地のままなんだ、と、ソウタの父ちゃんが言っていた。

 そこへ小さな黒っぽいやつが、ぴょんぴょん飛びはねながら入っていった。

 ソウタは思わず、ランドセルをしょったまま、そいつを追っかけて走った。

 うちがいちばん奥だから、いっしょに登下校する友達も、いつもソウタより先に、それぞれのうちへ入ってしまう。ソウタがうちへ入るのは、いつも最後で、ひとりぼっちだ。でも、今のソウタは、それがかえってうれしかった。

 そいつは意外とすばしっこくて、空き地に入ると、すぐに姿が見えなくなった。後から空き地に飛びこんだソウタは、まわりをきょろきょろ見回した。ぼうぼう生えたカヤがじゃまで、どこへ行ったか、ぜんぜん分からない。

 ソウタは、適当に近くのカヤのしげみをかき分けて、中をのぞいてみた。何もいない。

 がっかりしたソウタは、ちょっと進んで、別のカヤをかき分けてみた。やっぱりいない。

 そうやってソウタは、空き地じゅう、行ったり来たりして探しまわった。

 いいかげんソウタがくたびれたころ、後ろでガサッと音がした。

 後ろを振り返ったソウタは、しゃがんで、そうっとカヤの間をのぞきこんだ。

 きらきら光る黒っぽい機械が、枯れ草の上にすわっていた。とび箱の上の段ぐらいの、四角い箱の形をしていた。ソウタなら、かかえて持ち上げられそうだった。

「おまえ、だれ?」

 ソウタが聞くと、機械はカメラみたいな黒い丸い目を、ちょっと大きくしてから小さくした。

「おまえ、どっかのうちの機械?」

 もう一度聞くと、機械はきょろっと目を動かした。黒っぽい箱の下の角から、指みたいなものが三本ずつのびて、びみょうに体を左右にゆすった。

「ひょっとして、ノラ?」

 機械は指をひっこめて、元どおり箱型になって、枯れ草の上に落ち着いた。たぶん、そのとおりだと言いたいのだと思って、ソウタはさらに聞いた。

「おまえ、うち、来ない? うちの機械にならない?」

 機械はジーッと小さな音を立てて、目を動かしてソウタを見た。でも、その気はなさそうだった。

 ソウタは毎日、空き地へ機械の様子を見にいった。

 機械は、ずーっと空き地にいた。天気がいい時は、体のまわりに板を広げて、ひなたぼっこしていた。雨の日は、草の間にかくれて、じっとしていた。それ以外では、空き地の地面をうろうろしながら、指みたいな細い棒をのばして、赤土をつまんで、吸いこんで、細かい粉にして吹き出している時もあった。

「おーい、ノラ」

 空き地の土の山にすわって機械の仕事をながめながら、ソウタは機械に話しかけた。

 機械はだまって二、三センチずつ前進しては土を食べている。

「なんだよう。ノラってよんだから、怒ってんのかよう」

 機械はやっぱり、ソウタを無視して、もくもくと仕事を続けている。

「あのさあ。おまえ、ほんとに、うちの機械になればいいのに」

 ソウタは声をはりあげた。

「うちさ、おまえみたいな機械がほしいって、いつも言ってんのに、父ちゃんも母ちゃんも、ぜんぜん買ってくんないんだよな。おまえ、草むしりしたり、外そうじすることも、できるんだろ」

 機械は知らんぷりで赤土の上をはいまわっている。けど、ソウタはおかまいなしに話し続けた。

「うちの中にも機械がいるけど、なんつーか、大人向けで、つまんないんだよな。外へ出ないし、質問しても、つまんないことしか言わないし、見た目だって、友達んちの機械みたいに、おもしろくないし。おまえがいっしょに遊びにいったり、ゲームの相手したりしてくれると、おもしろいんだがなあ」

 ゆっくり進んでいた機械が立ち止まった。箱みたいな部分がくるっと回って、ソウタのほうを振り返った。

 機械は小さな土けむりを立てながら、静かにソウタのほうへ走ってきた。

 指を出して、ちょいちょいと手招きするように動かすので、ソウタは、ちょっと持ち上がった機械の下へ、手のひらを出した。

 手のひらに、小さな黒いかたまりが、ぽとりと落ちてきた。思わずソウタは顔に近づけて、しげしげとながめた。砂鉄を固めたみたいな、直径数ミリくらいの、丸い玉だった。表面がちょっとでこぼこしているけど、ざらざらはしていない。

「わっ、すげえ。こんなこともできるの?」

 機械は得意げにキラッと目を動かした。

 だんだん機械は、動く場所を広げて、いろいろなことをしはじめた。

 まず、空き地の真ん中に、穴をほりはじめた。アリの巣みたいに、入り口に細かい土を積み上げて、けっこう深くまでほっているようだった。

 それから、空き地の草をかじるようになった。カヤや、ネコジャラシや、ソウタには名前の分からないいろんな草を、ちょっとちぎっては吸いこんで、土と同じように細かくして、フイーンと音を立てて吹き出していた。まるで、味見しているみたいだ。

 ある日、ソウタが学校から帰ってくると、うちの裏と空き地の間の生けがきに、機械がしがみついていた。

「こらっ、ノラ」

 ソウタは機械に駆けよって、生けがきの木をおさえた。

「うちの庭の木はかじっちゃだめだ。父ちゃんや母ちゃんに見つかったら怒られるぞ」

 細かい葉っぱを吸いこんでいた機械はちょっと止まった。そして、ゆっくり生けがきから下りた。

「とにかく、ここからここまでは、入らないこと」

 ソウタが手で線を引くと、機械は目をきょろっと動かして、その動きを追っかけた。

 その後、機械は、ソウタのうちには近よらなくなった。いちばん近くまで来た時も、草のしげみや土の山のかげにかくれて、ソウタのうちには見向きもしなかった。

 かしこいやつだな、とソウタは感心したが、同時に、ちょっとさびしかった。もしも機械がうちに入ってきて、何も悪さをしなかったら、父ちゃんや母ちゃんだって、機械を飼ってもいいと言うかもしれない。なのに、機械が近づいてきてくれなければ、そんなチャンスもありっこない。うちに入らないこと、なんて、言わなければよかったなあ、と、ソウタは残念に思っていた。

 でも、うちの裏へいった母ちゃんが、生けがきの下を見て、こんなことを言っているのをソウタは聞いてしまった。

「へんねえ。空き地に、野生の動物でも住みついたのかしら」

 ソウタはぎょっとした。それが機械のしわざだってことが母ちゃんや父ちゃんにわかったら、と思うと、なんだかいやな予感がした。そうなってから、うちで機械を飼っていいかどうか聞いても、ぜったいに許してくれない気がした。

 だから、ソウタは空き地へいって、機械によーく言い聞かせた。

「おまえ、うちの母ちゃんとか父ちゃんとかに、ぜったい見つからないようにしなきゃダメだぞ」

 機械は穴をほっているところだった。穴から半分、顔を出して、しゃがんだソウタと向かい合っていた。

 でも、指だけはせっせと動かして、灰色の土のかけらを穴のまわりに運んでいた。ちょっと前まで、穴のまわりは赤土のかけらばっかりだったのに、ほった土の量が多くなりすぎて、置き場もなくなってきたようだ。

「こんなでっかい穴なんかほってるけど、だれかに見つかったら、すぐ、つかまっちゃうからな。どうしても穴ほりしたいんなら、なるべく見つからないようにやって、だれか来たら、中にかくれてろ」

 機械はちょっとだけ指を曲げて、上下にゆれた。わかってる、と、言っているように見えた。

「ほんとは空き地になんか住むのやめて、うちの機械になってほしいんだけどなあ。おとなしくしてれば、母ちゃんだって、おまえのこと、きらったりしないと思うけど」

 機械はきょろっと目を動かした。そして、ころげ落ちそうになった土のかけらをつかまえて、元どおり、穴のまわりに積み上げた。

「あ、そう。やっぱ、穴ほりがだいじなの」

 それじゃあ、うちに来るつもりはなさそうだな、とソウタは思った。うちに来たって、飼うのは許してもらえそうにない。庭でこんなふうに穴をほったら、母ちゃんが怒って、こんな機械すててきなさい、と言うに決まってる。それでも、いつ、だれに見つかるか分からない空き地でくらすより、うちの機械になるほうが安全だと思うのに。ぜんぜんわかってないじゃんか、と、ソウタは一人でふてくされた。

 機械がほり出した土が山になって、空き地に、見なれない土の山が、いくつかふえた感じになってきた。

 穴が一つじゃたりなくなったのか、機械は、別の場所にも新しい穴をいくつもあけはじめた。その穴のまわりにも、機械がほり出した赤土や、灰色の土が、山のように積み重なった。まわりに土を置ききれなくなると、ときどき外へ出て、穴のとなりへ土を移動させたりもした。

 それと、機械は、空き地だけじゃなく、空き地のまわりの森へもいくようになった。どうやら、森の草や枯れ葉の味見もはじめたらしい。空き地に穴や土の山がふえても、森の中にいれば、空き地より見つかりにくいので、ソウタはちょっと安心した。

 その日も機械は森へいっていた。

 雨がふりそうな天気だったので、ソウタは学校へ持っていったかさを、機械がほった穴の一つの上に広げて置いておいた。穴のまわりが高くなっているおかげで、雨でも水びたしになることはないようだったが、やっぱり雨が入るので、かわくまで機械も中に入れなくて、こまっているように見えた。ソウタがかさを置いておけば、ちょっとは水が入るのをふせげるので、機械も喜んでいるようだった。

 ただ、雨が本ぶりになると、ソウタもかさを持ってうちへ入らなければならない。前に一度、空き地にかさを置いたまま帰ったら、どうしてそんなことするのと、母ちゃんにひどく怒られた。雨が上がったら取ってきなさいと言われて、取りにいったソウタは、重大なことに気づいた。かさが穴の上にあると、遠くから見ても目立ってしまう。そのうち、屋根をつくってやろうと考えていたソウタも、これでこりた。親や近所の人にばれないようにつくってやるのは、よく考えると、けっこう難しい。

 機械がなかなか帰ってこないので、ソウタは短い草のある場所にしゃがんで、草の間をはねまわるバッタをつかまえて遊んでいた。

 その時、ソウタのうちのほうから、ばたばたという足音と、だれかの声が聞こえてきた。

 ソウタはびっくり箱みたいに立ち上がった。

 急いでそっちへ走っていってみると、友達のヨッチと、あと二、三人、それぞれ自分ちの機械をつれて、空き地の入り口へ来ていた。

「どうしたの、おまえら」

 どきどきする心臓に気づかれないように、ソウタは声をはりあげた。

「さいきん、ここの空き地の様子がへんだから、調査にきたんだ」

 ヨッチが胸をはって答えた。足もとで、ヨッチのうちの機械も、得意そうにゴロゴロころげまわった。

「なんかへんなのが巣つくってるみたいだから、調べてやろうって」

 ほかの三人も口々に言った。

「なんかいるよな、ここんとこ」

「へんな動物が住みついたって」

「ちがうよ。ノラの機械だって」

 ソウタはぎょっと身ぶるいしそうになるのを必死でこらえた。

「おまえは、こんなとこでなにしてんの」

 ソウタは、とっさにバッタをつかんだ手を、みんなに見えるようにつき出した。

「バッタ。バッタとってたんだよ」

「ふーん」

 ヨッチはへんな顔をして首をかしげた。

「じゃあさ、へんなやつ、見なかった?」

「見なかったよ、ぜんぜん」

「ふーん」

 ヨッチはやっぱりへんな顔をして、いっしょにいる仲間たちを振り返った。

「いこうぜ」

 みんながばたばた走っていなくなってから、やっとソウタは大きな息をついた。

 ソウタが、かさの場所にもどろうとしたら、すぐ近くで小さな音がした。

「あっ、ノラ」

 機械は、おがくずみたいな木の粉や草の切れはしを、体のまわりにたくさんつけていた。近よると、庭の草むしりのあとか、父ちゃんの日曜大工のあとみたいなにおいが、むわっとした。

「見つからないで、ほんとによかった。これからも、ぜったい、だれにも見つからないように注意すんだぞ」

 ソウタは機械の上の面を、ぽんぽんと軽くたたいた。機械は、ちょっとだけ、めいわくそうに体をすくめた。

 ソウタが、やれやれと思っていたら、今度は、ソウタの母ちゃんがさわぎ出した。

「最近、裏の空き地から、へんなにおいがするのよ。なんだか前に見た時より、土の山の数もふえたみたいだし」

「ニュータウンを作った時に、へんな物でも土にうめて、それが雨でとけ出したり、ガスになってふくらんだりしたんじゃないか?」

 父ちゃんはそう言っていたが、母ちゃんはますますいきり立った。

「だったらますます、ちゃんと調べてもらわなきゃ。へんな物がうまってたら、めいわくをこうむるのは、ソウタや、うちなのよ」

 母ちゃんはうちの機械に話しかけて、どこかへ相談しはじめた。

 最初に出たのは市役所の人だったが、母ちゃんのお望みの答えはなかなか言ってくれないらしかった。

「ははあ、あすこの土地ですか。あすこは今、ややこしいことになってましてねえ。私らも、なんともしがたいんですわ」

「そうおっしゃいますけど、現に、うちのほうまで、へんなにおいがただよってきてるんです。土も勝手に盛られてるようですし、なんとかしていただかなきゃ、こまります」

「そう言われましてもねえ。土地に権利のある人が、なにかしたんじゃないんですか?」

 母ちゃんは通話を切った後、ものすごく怒って、わんわん文句を言った。ソウタがこっそり、ほっとしているのも、ぜんぜん気づかない様子だった。

 それで話がすんだかとソウタは思ったが、大まちがいだった。空き地のことは、ご近所のニュータウンでも、とっくの昔に、うわさになっていた。

「動物にしちゃ、おかしいわよねえ」

「やっぱり機械じゃない。最近、主人のいない機械がふえてるって話だから」

「やだ、気味が悪い」

「うちの子、ノラの機械なんて、ひろってやればいいのにとか言うんだけどねえ。そんなの、あぶなくて、ひろえるわけないじゃない。中古で買うならともかく」

 母ちゃんや近所のおばさんたちの話に聞き耳を立てているうちに、不安になってきたソウタは、母ちゃんが出かけたすきに、こっそり、家をぬけ出した。

 空き地へ入ると、ほんとうに、つーんとへんなにおいがした。最近、うちの近くはもちろん、うちの中にいても、かすかに感じるにおいだった。

 機械が穴をほっていた場所は、そのままだった。穴のまわりの土の山も、ちょっと色が変わって、くずれかけていたが、そのままだった。ただ、穴と穴の間の地面が、ほんの少し、くぼんで、土の色も変わっているのにソウタは気がついた。ひょっとしたら、穴と穴は、モグラのトンネルみたいに地下でつながっているのかもしれない。

 機械の姿は見えなかった。

 心配になって、ソウタは、小さな声でよんでみた。

「おーい、ノラ」

 しばらくは、なんの反応もなかった。でも、けんめいに耳をすますと、穴の中から、小さなカシャカシャウィンウィンいう音が聞こえてきた。

「ノラ」

 やっと外へ上がってきた機械を見て、ソウタははっとなった。

 いつのまにか、機械の表面は、よごれや傷がたくさんついていた。ぴかぴかだった黒い体も、よく見ると、細かい傷だらけだった。その上に、どろや土ぼこりがついていたし、葉っぱや草を吸いこんでいた口みたいな部分のまわりにも、白いペンキみたいなしみがついていた。

「ノラ。おまえ、だいじょぶなのか?」

 思わずソウタは地面に手をついて、しゃがみこんで機械と向かい合った。

 機械はジッと音を立てて、びみょうに体をゆらした。

 とつぜん、ソウタの手に、何かがちょんとさわった。びっくりして手をひっこめようとしたソウタは、機械が指を一本のばして、自分の手をつついたのだと気づいた。

「……だいじょぶだってことなのか?」

 機械は、もういちど指を出して、ソウタの手の甲をちょんとつついた。

「だいじょぶなんだな。おまえのこと、信じるからなっ」

 ソウタは思わず、においがつくのもかまわずに、機械をがくがくゆすぶった。おかげで、うちに帰ってから、においが強くなったとさわぐ母ちゃんから、においのもとをかくすのに苦労した。

 大人がさわぎ出したので、小学校でも、機械のことが問題になりはじめた。

 まず、帰りの会の時に、先生がクラス全員に注意した。

「最近、ノラの機械が学区内に住みついたという話ですが、見かけても、ぜったいに、手を出したり、かまったりしてはいけません。家庭用の機械とちがって、危険かもしれないからです。機械が住みついたという場所にも、ぜったいに、子供だけで入ってはいけません」

 いけません、と言われても、みんな興味しんしんで、かえって、クラス中にノラの機械の話が広まった。

「家庭用の機械とちがうって、どうちがうんだろうな」

「あれだよ、変わった機能があったり、高性能だったりするのかも」

「えー、じゃあ、つかまえれば、おもしろそうなのに」

 それから、校長先生も、朝の全校集会で、みんなに機械の話をした。

「機械は、みなさんのおうちにもあって、なじみ深いものですが、世の中では、みなさんのおうちにあるのとは、ちがう種類の機械も、たくさん働いているのです。私たちのために働いてくれる機械は、どれも、だいじなものです。でも、機械だって、いつも働いているのと、ちがう場所に来てしまうと、まいごになってしまいます。まいごになると、いつもみたいに、落ちついてお父さんやお母さんを探したりできなくなりますよね。機械も同じです。だから、まいごになった機械は、ほんとうの持ち主がむかえに来てくれるまで、そっとしておいてあげてください」

 校長先生は、ながながと話をしたが、先生の話なんて、聞いたはしから右の耳をとおって左の耳にとおりぬけるやつらには、あまり効き目がなかった。

「ソウタ、それって、おまえんちの裏の空き地だよな」

 またかよ、と内心うんざりしながら、ソウタは適当に返事した。

「うん」

「ほんの近いとこに住んでるくせに、ぜんぜん気づかなかったのかよ。おまえんちからなら、空き地の様子だって観察できそうなのに」

 ヨッチはとなりのクラスなので、ソウタが空き地で遊んでいたことは、クラスのみんなにあまり知られなくて、さいわいだった。

「あ、そうだ。先生には入っちゃダメって言われたけど、おまえんちから見るだけなら、いいよな。今日の放課後、おまえんち、よせてくれよ」

「むりだよ。うち、母ちゃんうるさいから」

「だいじょぶだよ。うちの中に入るとは言ってないし」

「それでも、キケンだって、先生言ってたじゃんか」

 空き地はもちろん、うちに来られるだけでもめいわくだったので、ソウタは、どうにかして断ろうとがんばった。

 そこへ、とつぜん、だれかが口をはさんだ。

「キケンじゃないかもしれないよ」

 ソウタはびっくりして振り返った。口をはさんだのは、機械や、宇宙のことに異様にくわしい、宇宙ハカセ、とみんなによばれている同級生だった。

 宇宙ハカセは、自分の机にすわったまま、手ぶりをまじえて説明しはじめた。

「今、限られた使い道だけじゃなくて、もっといろいろなことができる機械をつくろうって動きがあるんだ。たとえば、宇宙じゃ、小さい機械を少しずつ集めて、新しいリングや、ステーションをつくってるんだよ。世界のあちこちから、計画に賛成の人が、自分のつくった機械を宇宙に送ってるんだ」

「えっ。でも、それって、キケンじゃないの?」

 別の同級生がこわごわ聞いた。

「そりゃあ、もちろん、家庭用とか、業務用とかの、今までの制限にはまらない機械だから、悪用しようとするやつらもいると思うよ。でも、その計画に参加してる人は、ちゃんと計画の本部にオウボして、許可をもらってるんだ。許可をもらえても、宇宙へ機械を送ってもらうのに、お金がかかったり、ちょうどいいロケットに乗せてもらえなかったりするから、たいへんなんだけどね」

「ふぅーん……」

 おもしろそうだが、ややこしい話なので、みんな、なんとなくしらけてしまった。

 みんなが別の話に移ったあとで、ソウタは、宇宙ハカセにそっと聞いてみた。

「それって、ほんと?」

 宇宙ハカセは鼻の穴をふくらまして答えた。

「ほんとに決まってるじゃん」

 ソウタが学校から帰ってくると、母ちゃんが、またどこかへ通話をかけていた。

「とにかく、あんなノラ機械に、うちの裏に住みつかれちゃこまります。いっこくも早く、つかまえてほしいんです」

 機械の向こうの人が答えた。

「へんなガスも発生しているようですからねえ。対応を決めるためにも、まずは調査してみる必要がありそうですね」

「じゃあ、今日すぐにでも来てください。お待ちしてます」

 いよいよだ、と、ソウタは青ざめた。いても立ってもいられなくなって、ソウタは、裏の空き地に急いだ。

「ノラっ。ノラ、どこだっ」

 きょろきょろしながら走りまわったソウタは、穴の一つから、よろよろと出てきた機械を見つけて、かけよった。

「ノラ、早くにげろ。ここにいたら、つかまっちゃうぞ」

 機械は、いやいやをするように、ふらふらゆれた。

「そんなこと言ってる場合かよっ。穴なんかもう、どうでもいいから、とっとと別の場所へいけよっ」

 すると、機械は動きを止めて、ぼとっと、なにかを土の上へ落とした。

 前にソウタの手のひらに落とした玉に似た、砂鉄を固めたような物体だった。ただ、今度のは、もっと大きかった。だいたい、ソウタの手と同じくらいの大きさだった。形も、カプセルみたいに長くて丸い形だった。ソウタがひろい上げてみると、小さいけど、中身がつまったスプレーのカンみたいな感じがした。

「これ、どうしたの?」

 機械は指をもぞもぞ動かした。そっちへ、そっちへ、と言うように、ソウタへ向かって、なにかをはじくような動きだった。

「ひょっとして、おれにくれるの?」

 ソウタがつぶやくと、機械は、うなずくように、上下に体をゆらした。

 ソウタは、かーっと顔が赤くなった。とっても嬉しかったが、どういうわけか、もうれつに腹が立ってきた。

「だから、そんなことしてる場合じゃないだろ! おまえこそ、早くどっかへにげろよ!」

 思わず、大きな声でどなった時だった。

“まもなく、ロケットを打ち上げます。できるだけ遠くへ、はなれてください”

 ソウタはびくっとして機械からはなれた。

「ノラ?」

 この機械がしゃべるのを聞いたのは初めてだった。でも、機械がしゃべったというより、あらかじめ決まっていた言葉を、そのまんまくり返したように、ソウタには思えた。

 ソウタが、ぼうぜんとしていると、もういちど機械が同じ声で言った。

“ここから、ロケットを打ち上げます。最低でも百メートル、できれば、その十倍以上、はなれてください”

 それでもソウタが動けないでいると、いきなり、機械が、ごとんという音を立てて地面に落っこちた。

「えっ?」

 今までとちがって、かたむいたまま、ぴくりとも動かない機械に、ソウタは目を白黒させた。

 すると、動かなくなった機械の後ろが、バネじかけのフタみたいに、ぱかっと開いた。

「……ノラ、なのか?」

 フタの中から現れたのは、元の機械の半分もない、新しい機械だった。全体が黒っぽかった元の機械とちがって、体の半分が黒くて、半分が白かった。サナギから羽化したての、羽が白くてやわらかいカブトムシみたいだった。表面はつやつやしていて、ぜんぜん傷がなかった。

 機械は、新しい細い指をソウタに向かってちょっと振ってみせると、すーっと走って、穴の中へ消えた。

 はっとしたソウタは、機械がしゃべったことを思い出した。機械がくれた物体をにぎりしめて、急いで走って、自分のうちのかげにかくれた。

 息をころして裏の空き地のほうを見ていると、原っぱの真ん中あたりで、細長い柱みたいなものが、土のかけらをふるい落としながら、にょっきりと立ち上がった。土の中にあったのに、表面はつやつやで真っ白だった。

 その柱の根もとがまぶしく光ったとたん、ものすごい音と、けむりまじりの暴風がおしよせてきた。ソウタは必死に家のかげにしがみついた。

 ちょっと風がおさまってきたところで、ソウタはすぐ空を見上げた。

 けむりと土ぼこりでほとんど何も見えなかったが、遠くに、上っていく小さな光が見えた。ずーっと高いところまで上がって、キラッと光った。

 ノラのやつ、宇宙で仲間に会えたかな、と、ソウタは思った。